兄弟の愛憎を超えて

 エバは長男カイン(「得た」などの意)と次男アベルを産みます。カインは土を耕す農夫、アベルは羊飼いとなりました。そしてこの兄弟にも罪の影響が及びます。ある時、二人は神にささげ物をします。神さまはアベルの供え物を受け入れますが、カインのものは目を留められませんでした。供え物の質や礼拝に対する態度の違い、あるいは神の選びの奥義によるものと解釈されます。その結果、カインは激しい怒りを覚えます。神さまは怒るカインに対し、「罪が戸口で待ち伏せしている」と警告しますが、カインは心を変えることなく、助けの呼べない「野」へ弟を連れ出し、殺害してしまいました。神さまはカインに対し「あなたの弟はどこにいるのか」と問います。それに対して、カインは「私は弟の番人でしょうか」と傲慢にも皮肉を込めて嘘をつき、責任を逃れようとしたのでした。それに対して神さまは、アベルの血が正義を求めて大地から「叫んでいる」と告げます。その結果、カインは大地から呪われ、農作物の恵みを絶たれて「さすらう者」となり、家族の絆や神の臨在から追放されるという重い罰を受けることとなりました。

 カインは絶望し、他者からの報復を恐れます。その様子は真実の悔い改めというよりは自暴自棄と言えるものです。しかしそんなカインに対し、神さまは彼を殺す者には七倍の復讐をすると約束し、保護のための「しるし(刻印)」を与えます。このしるしは彼の罪と追放を常に思い起こさせるものであると同時に神さまの恵みのしるしでした。最終的にカインは神の前を去り、「さすらい」を意味するノデの地に住み着きます。これは、罪が人間を神から引き離すという悲劇の本質を示すものです。

 こうして、最初の殺人が兄弟間でなされ、神なき世界がカインの末裔によって広げられたように見えます。しかしそこにもなお、神さまのしるしが付されています。そしてこの神の愛から遠く隔たった人間の罪の世界に、イエス・キリストは来て下さるのです。

中村恵太